2012年9月25日火曜日

テスラの例。EV (電気自動車)対応がブランディングになる時代。

アメリカのEVメーカーTesla Motors テスラ モーターズが今日、独自の急速充電インフラを発表しました。


Supercharger(このネーミングはなかなか上手い)と名付けられたこれは、30分で90kWの電力を急速充電するというもの。




Teslaの勝負パンツことTesla モデルSの場合はカタログスペックで150マイル(約240km)の航続距離に相当するので少なくとも160km〜200kmくらいは実際に走れるでしょう。




Superchargerはシステムの名前でありインフラの名前であるようです。極秘裏に今日の発表までにカリフォルニア6カ所に作られ、今日から即日Tesla モデルSのオーナーは使えるようです。「Today!」(カリフォルニア訛りでお願いします)ってまるでスティーブ・ジョブスのAppleの発表。 

2013年前半までにアメリカのほぼ全土に配置し、2013年後半にはヨーロッパとアジアに設置を開始する、とのこと。パリには一等地にゴージャスな直営店がありますし、東京の青山にもあります。おそらく日本でモデルSが販売されるころには都内数ヶ所に設置されるのかもしれません。



ちなみにこのSupercharger、その電力はTeslaのCoFounderであるイーロン・マスクが創業したソーラー関連企業、SolarCityによって保守、電力を供給することで設置後のコストを最小限に抑える……というところも上手いです(日本ではどうなるんでしょうか)。 

いくらTesla モデルSがEVとしては長大な航続距離を誇るといってもそこはカタログスペックですから、実際はマージンも見込んで6〜7割といったところ。そこで、ダイナーやレストラン、ショッピングモールなどにこれを設置し、食事や買い物をしている間に充電を完了させることで実用上の航続距離の問題をクリアしようというものです。

 EVの問題点はやはりインフラなわけで、100年にわたって構築してきた内燃機関のスタンドに勝負しなければなりません。そこをEVメーカーが(今のところ)自前でやらなければならないところに辛さがあると同時にそれをやってしまうところにTesla Motorsの凄さがあるともいえます。 


さて、このSupercharger、カリフォルニア郊外にある高級レストランやナパバレーあたりのワイナリーがこぞって導入を進めたがるような気がします。


たとえば同じようなエリアに同じような価格帯、味のレベルのイタリアンレストランがあったとすれば、Tesla モデルSのオーナーはSuperchargerが設置されている方を選ぶでしょう。逆にレストランの方はスジの良い客を引っ張ることができるわけです。

Tesla モデルSの価格は$50,000〜97,900。日本円にするとおよそ380〜760万円と驚異的にお安い値段に感じられますが、円高のトリックでして、現地の価格でいうとメルセデス・ベンツEクラス、BMW5シリーズ、Audi A6の上級モデルで$60,000くらいですから、日本で言えば800〜1,000万円クラスのクルマになるわけです。

以前のエントリでも書きましたが、クルマというのは個人と家の中間に位置するような高付加価値商品であり、そこに誰がどんな否定をしようとも属性がついてまわります。Tesla モデルSなら先のような属性があるわけで、それは確実にレストランやショップにとってはスジがいいということになります。

なにしろTesla モデルSのオーナーというのは
・1,000万円をクルマに支払うことができる懐を持つ
・新しいものが好きなアーリーアダプター層
・(EVということで)テクノロジーにも明るい
・(まるでiPhoneを買った人のように)熱心に人に勧める
そういう人です。

この構図、なにかに似ていると思わないでしょうか。スターバックスは完全禁煙(「コーヒーの香りを楽しんでいただくため」というのはコーヒー好きとしては詭弁と思いますがお上手)ということが人気の一助となりました。

「あそこのカフェはネット繋がんないからなぁ」
都会で人気のカフェはフリーWi-Fiであることが必須です。

「EV対応」は、すなわちそれ自体がブランディングになる、そんな時代なのでしょう。


2012年9月22日土曜日

工業製品としてのiPhone5の愛でかたと、iPhone5のキズで半年後におこること

iPhone5が昨日発売されました。

もちろんワタシも買い替えるのですが、ブラックにするかホワイトにするかどうしても実物を見ないと決められない(古いタイプの人間ですね)ので発売日に見てきました。

実際のiPhone5、こりゃ凄い。

何が凄いって商品としての商品力、もっというと工業製品としての作りです。
ハードウエアと書いてしまうとどうしてもチップとかロジックボードとかの話と混同してしまうので、もっと単純にケースの話に絞って説明します。

まず個人的にはこちらにしようかと判断するに至ったホワイトモデル。自転車好き、アルミ好き、切削加工好きとしてはこちらを選ぶのが吉です。背面のパネルはアルミということでアルマイトであろうと思われますが、MacBook Proなどのグレーのサテンっぽい質感とはまったく異なるパールマイカというか明るい白のきめ細かい質感が新鮮。

アルマイトで(アルマイトだったとしたら、ですが)こんなアルマイトは見たことがありません。おそらく非常に細かいブラストのあとアルマイト処理をしていると思います。

アルマイトはこういう梨子地の粒子にかけるとキラキラと粒子が光って見えるので、それでパールっぽい質感になるのですが、ケースのベゼル(外周)とは色がだいぶ違うのでもしかしたらアルミ合金の品番自体を(色のために)変えてあるかもしれません。ベースとなるアルミ合金の品番によってアルマイトの掛かり方と色は変わってきますし、もしそれが本当だったら凄まじいこだわりと言わざるをえません。

加えて、ホワイトモデルはエッジの面取り(C面取りといいます)がアルミ合金の色そのものなのでキラキラとして切削のシャープさも強調されており、金属加工として、アルミ合金としての素材感や加工感はより色濃く味わえるでしょう。

一方のブラックモデルは非常にシック。
こちらはPVD加工したロレックスみたいなカッコよさ。PDVでツヤ消しブラックのロレックスといえば藤原ヒロシさんが持ってて日本では有名になりましたが。同じ黒だけど表のガラス、サイド(それもツヤ消しとC面取りのツヤ有り)と背面のアルミ、 背面上下の樹脂、と質感とツヤ感(だけ)が違うってのはオシャレです。

いわばバットマンのコスチュームみたいな。
あれがダークでシックでワルっぽくてカッコいいのはラバー、レザー、ナイロンなどなど真っ黒ですが素材感が全部違うからです。

さて、iPhone5の工業製品としての見どころは、色を中心にした加工だけにとどまりません。背面中央のアルミバックプレートと上下の樹脂(?)ガラスのパネルの接合面、ここを触ってみてください。まったくの別々のパーツなのに接合面が完全ツラいち、段差がまったくありません。

これはAppleのオフィシャルムービー(5分40秒くらいから)でも明らかになっていますが、3枚のパネルを組み付ける時に、その厚さを計測して、多くのパネルのミクロン単位の厚みの誤差のなかから一致するものを選び出して接着しているワケです。いかに工業製品とはいえ、厚みなどのサイズは誤差がでてしまいます。この許容できる誤差を公差といいますが、その公差内で出来たパーツの中からさらに組み合わせを選んで組み付けているわけですね。

こちらは @HIRO_YUKIによる大阪弁バージョン。仕事早い。

これはまるで高級機械式腕時計のようです。
かつてここまで質感のためだけにやったデジタルガジェットはワタシのつたない知識では知りません。しいていうならVERTUでしょうか。ただしVERTUは機械式腕時計と同じように手作りでそれを実現しています。かつて高級品といえば、こうした精度の高さは手作り(=職人技)で行うしかなく、よってそれが高級品の根拠でもありました。iPhoneはテクノロジーをもってそれを実現しているワケで、目的は同じでもまったく違うアプローチというのが面白いですね。時代が時代ならマリー・アントワネットしか味わえなかったところがiPhone5は5000万人に広めています。

iPhone5というかAppleという企業は凄まじい勢いで高級品の民主化を行っているともいえますし、この質感を知ってしまった以上、他社にたいしては凄まじくハードルを上げてしまったともいえます。

さて、すでにiFixed.comなどでiPhone5のアルマイトがキズがつきやすいという声が上がっています。が、そもそもiPhone5はアルマイトですから、はげるものです。

たとえば、自転車のクランク(ペダルと繋がっているところ)はこんな感じになります。ベースはグレーのアルマイトです。

このアルマイトのハゲですが、もちろんエッジ部分まで色を付けているブラックモデルの方が目立つのは間違いありません(下地のアルミシルバーになるので)。たしかにエッジハゲるかもしれませんが、それは品質が悪いのではなく、単に「アルマイトはそういうもん」なのです。


ただ、個人的にはiPhone4のステンレスの方が耐久性は高いので軽量化のためとはいえ、アルミにしたのはどうかな…と思います。

そして仮にそうなってもそれを味として愉しむのが粋なオトナの選択といえるでしょう(昔の鉄砲のエッジのハゲが意外とかっこいい、みたいな)

半年一年後にアルマイト剥げたー、エッジが欠けた、という声は間違いなく続出するでしょう。で、「ま、こんなもんだよね」。という人がいたらそれはアルミに慣れてる自転車乗りということで…… ;-)



One more thing.
iPhone5はアルミですから、iPod nanoのように、実際はほぼどんな色でも付けることは出来ます。iPhone5sはもしかしたらカラーバリエーションができるかもしれませんね。

One more thing
より強いアルマイトとして日本のミヤキだけができる特殊アルマイト「カシマコート」を使うという手もあります。これだと金色〜茶色〜ダークブラウン〜限りなく黒に近い茶、という色になりますが。

One more thing
iPhoneもMacBookもこれ以上軽くするにはマグネシウムかカーボンを使うしかありません。がマグネシウムは電波を吸収したりといろいろ難儀なので、Appleがこれ以上製品を軽くしようとするならカーボンに走ると予言しておきます(少し根拠はあり)。

2012年9月13日木曜日

今夜iPad miniが発表されたら、それは後付け高級カーナビの命日になるかもしれない、という話

このブログを書いている数時間後にAppleの新製品発表が行われます。

 新しいiPhoneは確実に発表されるでしょうが、長らくウワサになっているiPad miniも発表されるかもしれません。もし、発表されたら、それは日本のハードウエアとしてのカーナビの命日になるのではないか。そんな、ちょっと日ごろ思っていたことを思うままに書いているので雑文御免です :)



このiPad miniですが、ざっくりまとめると
 1・サイズは7インチくらい(Retinaディスプレイにしつつ解像度を同じにするとこのくらいのサイズに)
 2・Googleマップからオリジナルマップに(表向きはGoogleとの契約切れ)
 3・もちろんSiriはある

という感じでしょうか。

もとより興味と思考実験(笑)としてクルマとナビゲーションとコミュニケーションというのが個人的なライフワークなわけですが、このiPad mini、実にカーナビゲーションにピッタリではないかと。

そしてカーナビといえば日本でさまざまなメーカーが後付け、ないしは純正ダッシュボードスペースに埋め込むモノをリリースしています。それらは20〜30万円超という高価格商品で、これら商品群がiPad miniの登場でその命脈を終えるのではないかと思っています。

というのも、もはやフィジカルな記憶媒体にマップを埋め込み、そこに店舗などのデータベースを格納して表示するという通信機能を持たないスタンドアロンのカーナビはあまりに不便だからです。例えばナビに表示されたガソリンスタンドを目指したらすでに倒産していた……なんてことはよく経験することでしょう。2012年版、なんていうナビの地図ではまったく間に合わないほど今、ガソリンスタンドは毎日のように廃業に追い込まれているのです。

それに元々のカーナビのアーキテクチャーをベースに追加に追加を重ねてカラオケ機能やメールやiPodオーディオコントロールやテレビなどを加えている様はDOS-Vモードとゲームがついたカラー液晶の、恐竜のようになった末期のワープロを思い起こさせなくもありません。

それならいっそ(これまでのiPadやiPhoneをナビとして使うアプリなどはありますが)iPad miniを埋め込か後付けでPND代わりに付けた方がいい。

まず1のサイズ。
 7インチというのはメーカー純正のダッシュボード埋め込みナビゲーション画面の最も一般的なサイズと殆ど同じです。最近ではテスラのモデルSの17インチ縦型ディスプレイとか、レクサスGSの12.3インチディスプレイなども出ており、大画面化する傾向にありますがこれらはまだ少数派です。



ちなみにテスラモデルSのナビはUI含めて完全にタブレット端末のそれでして、昨年スペインで開かれたモバイルワールドコングレスのNVIDIAブースに堂々と置かれていたことを考えるとおなじみTarga2チップを搭載していることは確実でしょう。つまりまんまタブレット端末みたいなものです)。

また、これまでのナビはおそらくダッシュボードへの収まりなど面でなんとなく横長が当たり前でしたが、クルマは前に進むものですし、多くの人はヘッドアップ(進行方向を常に上に表示する)でナビを使うので縦長である方が理にかなっています。

加えて前にWIRED誌にコラムで書きましたが、このサイズなら目的地に着いたら取り外して、そのままホテルで電子書籍リーダーとしたり、TwitterやFacebookをする、という使い方もできるわけです。

次に2のマップです。
 先のガソリンスタンドの例を出すまでもなく、地図を毎年修正しベニューを手動で探しデータを打ち込むようなことは非効率で、むしろもはや不正確といえるでしょう。ユーザー同士がソーシャルに修正しつつマップを作っていく方が最終的に精度が高くなります(このあたりはwazeが実現)



そして新しいiPhoneとiPad miniのiOS6はAppleオリジナルのマップが採用されるのがすでに明らかになっています(日本の地図はパイオニアの子会社のインクリメンタルPというウワサも)。

現行のナビで不便なのは、電話番号か住所、正確な名称を入れなければならないことです。その前段のプロセスとして雑誌なりネットなりでその場所を調べなければならない。そんなことをするくらいなら、foursquareのベニューなり、Googleで検索し、どんなところか調べてそこに直接行く、というほうがスムースです。

今、パソコンでGoogleで検索すれば、ガソリンスタンドがすでに倒産しているか、例えば夜、今から目的のガソリンスタンドの営業時間中にたどり付けるか、どのガソリンスタンドが安いのかなどが、リアルタイムでわかり、現にヨーロッパのVWグループのナビはGoogleナビになっており、すでにこれらの機能を実現しています。

3のSiriに関しては、OS側の制御も音声でできるということで全ての操作(ナビの呼び出し、目的地の検索、音楽などの再生)が出来るということです。MacOSの音声入力もそうですが、Appleの日本語認識の凄まじい認識精度は、これまでの数十年の日本のナビの音声入力はなんだったのかというレベルで…。


 さて、ここからが本題にして完全な思いつき。 Appleが自社のマップを最初からカーナビ利用を前提にしていたら実に面白いんではないかと思います。

そもそも、人はなぜ、クルマに乗るのか?それは移動の目的があるからです(走ること自体が目的、というケースもありますが)。

ではその目的地ないし目的のアクティビティは無数にあるなかから機械的に選ぶのかといえばそうではありません。多くの場合はメディアで面白そうだから、友達が良かったといっていたからといったことで知るわけです。

それならFacebookで先週友達が行って楽しかったというキャンプ場を目指したらり、Instagramで美しかった海岸を見に行ったり、miilで友達が美味しいといっていた山奥の蕎麦屋を訪れたりしたいはずです。少なくとも自分はそうしたいですね。

何を検索したか。
何処へ行ったか。
どのくらい時間を使ったか。
ユーザーのクルマはなにか。

クルマには善かれ悪かれ属性があります。トヨタ86やポルシェ911に乗っていれば「ああ、クルマの運転が好きなのね」とわかりますがそれだけではありません。そのクルマが高いか安いか(経済レベル)、4ドアなのかミニバンなのか(家族構成および行動様式)、どのブランドか(好み)などなど。 「いや、オレはクルマなんぞ興味ない。動けばよいのだ」という人も立派に“クルマに興味がない”という属性が付くわけですね。そもそも属性は自分が決めるのではなくてデータを解析する方が決めるものですし。

AppleIDの他にナビゲーションモードの時には任意で自分のクルマを登録させる。
すると登録の見返りとしてユーザーはそのクルマの大きさでは通れない道はナビのルートから避けるようにしたり、平均的な燃費からガソリンスタンドを自動的に表示したり。EVならステーションを表示させる。ユーザーの許可の元、同じ車種のユーザーが常にマップ上に表示されたりしても面白いかもしれません。自分と同じ車種のクルマとすれ違うと「おっ!」と思うのはクルマ好きならよくあること(余談ですがトヨタ86のプロモーションはオススメ峠ガイドなどではなくこういことを86自体に実装すべきではないかと思っています)。

 そしてここまでiPhone、iPadが普及しているということは一本の道の上にかなりの数のユーザーがいることになり、その位置情報から完全なリアルタイムで渋滞の情報を表示することも出来ます(これはトヨタやホンダの純正ナビでは実現していますが、あくまでホンダならホンダの新車を買った人同士のデータに限られています)。

さらにiAd位置情報版みたいな広告を用意すれば、優先してレストランやガソリンスタンドを表示することができるでしょう。 

今度のiOS6、新しいiPhone、iPad mini(出るなら)でGoogleのマップとの決別が明らかになっていますがその理由は「契約が終わった」のではなく、広告絡みであることは間違いがないでしょう。

さて、このAppleカーナビの上で、既存のカーナビメーカーや私たちはどうすればいいのでしょうか。コンテンツを持つ会社は、クルマのネット化で、ビジネスチャンスが生まれます。ベースとなるマップの上に乗せる情報を売るのです。 

個人的に最も分かりやすいのが食のベニューでしょう。
例えばmiilのベニューをマップに乗せる。軽井沢にドライブにいった時に、近所を検索すると友達が以前行っていて、美味しいといっていたピザ屋があることがわかり、そこに行く……というような。


そして例えば東京ウォーカーがオススメのアミューズメントスポットを提供する。
例えばカーサブルータスが美しい美術館100館の情報を提供する。
iPad miniですからオフィシャルサイトへのリンクも含めて必要な情報はすべて表示ができます。

既存のカーナビのように住所は表示されるが営業時間もどんな場所なのかも、料金も表示されなくて実は参考にならない…という残念な状態と対極の、本当に使える情報がナビ上に現れるわけです。 

これら情報はマップの上にレイヤーのように重なっていくようなイメージで、ユーザーは必要な情報のレイヤーを選択して表示させます。企業はそのレイヤーを売るのです。既存の出版社やネットサービス業者は、自分たちが保持しているコンテンツを収益に変えることができるかもしれません。 

さて、Google。すでに最新のAndroidのGoogleマップはすでに多くのAndroidユーザーのアクティブな位置情報から道路の渋滞をリアルタイムでVICSなど足下に及ばない精度で表示しています。VW系のカーナビでは実装されていませんが、Google AdSenseやGoogle AdWords的なものをマップの上に表示すれば(広告を出したガソリンスタンドやファミリーレストランを強調表示)、それは確実にGoogleの収益となるでしょう。 



GoogleはAndroidスマートフォン、タブレットの他にVWグループ(フォルクスワーゲン、アウディ、ベントレー、セアト、シュゴダ、ランボルギーニ)と組んでいます。そして、Microsoft(とそのBing)はフォードと米国トヨタと組んでいます。そしてApple。

クルマとは、属性があって嗜好性があって広範囲に動き、プライベート空間でありパブリックでもある存在。だからクルマは、デスクトップでもない、モバイルでもない第三のエリア、ネットが入り込む最後のフロンティアになるわけです。Google、Apple、Microsoft、御三家の次の主戦場は、クルマなのです。


One more thing
ネットとスマートフォン・タブレットとクルマという文脈では、最終的にそれこそdocomoやKDDIがSIMと回線を提供する代わりに月額でクルマ(特にシティコミューター)をリースするということにすらなっても構わないんじゃないかとも思います。

One more thingその2
クルマに通信が付けば、エンジンマッピングや回生ブレーキのアルゴリズム修正をオンラインでファームアップデートしてもいいんじゃないかとも思います。

One more thingその3
本文中にもあるトヨタ86の峠クエスト(オススメ峠ガイド)ではない別のプロモーション方法があったのではないか…と思っています。なぜなら峠クエストは元々クルマ好き86潜在顧客には効くとは思いますが「新しくクルマの楽しさを知ってもらう」という86のミッションにはそぐわないためです。

2012年4月18日水曜日

アウディ、ドゥカティを買収。その理由を考えてみた。

アウディ(正確に言えばフォルクスワーゲングループ)がドゥカティを買収するようです。

今日4月18日に取締役会で承認されるとか……。これを書いているのは18日の昼ですが、夜になれば詳細が伝わってくるでしょう。

Audi Said Set to Buy Motorbike-Maker Ducati for $1.1 Billion (Bloomburg)

ドゥカティはモーターサイクルの世界で確固たる地位とブランド力を持っているので、アウディはドゥカティというブランドはそのまま「イタリアの血潮流れるパッショネートなモーターサイクル」として存続させるでしょう。

Bloombergの記事によると今回の買収劇は同じくドイツのBMWとの競争を強化するため……とあります。たしかに世界的にもプレミアムカーマーケットにおいてメルセデスが一頭地抜けてはいますが、目下アウディのコンペティターはBMWであるのは間違いがないわけです。BMWはホンダとともに数少ない2輪車と4輪車を両方作っているメーカーですから、これで一騎打ち。

ですが、アウディはアウディブランドで(もしかしてDKWヴァンダラーのブランドで)モーターサイクルを作るのではないかと思っています。なぜなら、それがアウディというブランドの出自を表すから。

実は、現在のアウディは4つのドイツ系ブランドが合併して出来たアウトウニオンが元になっています。そのアウトウニオンはアウディ、ホルヒ、DKW、ヴァンダラーという4つのクルマブランドが合併してできたブランドです。アウディのマークが4つの輪なのは、この4社が合併したアウトウニオンのマークを引き継いだからです。

30年ほど前までアウディはフォルクスワーゲングループの中の、「ちょっとだけ高級そうなフォルクスワーゲン」といった立ち位置でした。

今のようなプレミアムブランドの筆頭に数えられるようになった原動力は、TT以来のトレンドをリードしたデザイン、凄まじい精密な仕上げの内装のしつらえと機械的完成度とクルマから販売店、ウエブサイト、プロモーション、カタログの書体まで偏執的ともいえるほど徹底した統一感を打ち出しているところにあり、ワタシがアウディというブランドを尊敬するのはまさにその一点にあります。

クルマメーカーでAppleに匹敵するブランディングができているところを上げるとしたら、それはアウディでしょう(スティーブ・ジョブズはBMWになりたいといっていたとされますが)。

さて、突然なんのPR、ブランディングコミュニケーションも取らずにアウディブランドでモーターサイクルを出しても説得力はないでしょう。ご存知の通り、アウディ(フォルクスワーゲングループ)にはモーターサイクル部門はありませんから、技術的にはDKW、ヴァンダラーとなんの繋がりもありません。それだと「なんでアウディがモーターサイクルを?」と顧客に思われてしまいます。

ですが、プレスリリースにこう記すのです。
「実は我がアウディは、4つのドイツのブランドを出自にもち、その2つはDKWとヴァンダラーというモーターサイクルブランドでありました。当時、世からDKWは●●と、ヴァンダラーは●●なバイクと認められ好評を博しておりました……(中略)……そのヘリテージと思想を受け継ぎ、現代のモビリティとライフスタイルに新しい提案をいたします……うんぬん」

こうしたフレーズが付き、それが顧客に伝わればアウディとしては勝ちです。2輪車を作り、売上げを確保し、同じくモーターサイクルを作るBMWと対抗するだけでなく、同時に、アウディというブランドの「ヘリテージ」を世界中に示す格好の素材となるのです。

アウディのようなラグジュアリー商材は、もはやどっちの方が性能がいい、どっちの方が安い、というような比較対象で選ばれるマーケットではありません。メルセデスだってBMWだってアウディだって「どれも間違いなくいい」。その中でどのブランドを選ぶかは顧客にゆだねられています。顧客はテイストや自分のライフスタイルにどのブランドがフィットするか、それがブランドの選ばれる理由になり、ゆえにブランドはスタイル(世界観でもいいでしょう)を提案し続けなければならないのです。

ですからプレミアムプロダクツ、ラグジュアリービジネスにおいて、今、重要なのは「ヘリテージ」になっています。自らのブランドを強化するための歴史的価値、ブランド的正当性。自分たちのブランドは歴史を重ね、今度の新製品も歴史的必然から生まれたものというストーリーを作るのです。


つまり、一連の買収は「プレミアムブランド」に必要なヘリテージ、歴史的正当性のさらなる補完というブランディング軸足の行動。アウディのすすめる全方位ブランディング強化の一環ではないかと思っています。


補足
では、なんでアウディはロールスロイスに匹敵するウルトラ高級車ブランドのホルヒを復活させないのか、といった話はまたどこかで。