今日4月18日に取締役会で承認されるとか……。これを書いているのは18日の昼ですが、夜になれば詳細が伝わってくるでしょう。
Audi Said Set to Buy Motorbike-Maker Ducati for $1.1 Billion (Bloomburg)
ドゥカティはモーターサイクルの世界で確固たる地位とブランド力を持っているので、アウディはドゥカティというブランドはそのまま「イタリアの血潮流れるパッショネートなモーターサイクル」として存続させるでしょう。
Bloombergの記事によると今回の買収劇は同じくドイツのBMWとの競争を強化するため……とあります。たしかに世界的にもプレミアムカーマーケットにおいてメルセデスが一頭地抜けてはいますが、目下アウディのコンペティターはBMWであるのは間違いがないわけです。BMWはホンダとともに数少ない2輪車と4輪車を両方作っているメーカーですから、これで一騎打ち。
ですが、アウディはアウディブランドで(もしかしてDKWかヴァンダラーのブランドで)モーターサイクルを作るのではないかと思っています。なぜなら、それがアウディというブランドの出自を表すから。
実は、現在のアウディは4つのドイツ系ブランドが合併して出来たアウトウニオンが元になっています。そのアウトウニオンはアウディ、ホルヒ、DKW、ヴァンダラーという4つのクルマブランドが合併してできたブランドです。アウディのマークが4つの輪なのは、この4社が合併したアウトウニオンのマークを引き継いだからです。
30年ほど前までアウディはフォルクスワーゲングループの中の、「ちょっとだけ高級そうなフォルクスワーゲン」といった立ち位置でした。
今のようなプレミアムブランドの筆頭に数えられるようになった原動力は、TT以来のトレンドをリードしたデザイン、凄まじい精密な仕上げの内装のしつらえと機械的完成度とクルマから販売店、ウエブサイト、プロモーション、カタログの書体まで偏執的ともいえるほど徹底した統一感を打ち出しているところにあり、ワタシがアウディというブランドを尊敬するのはまさにその一点にあります。
クルマメーカーでAppleに匹敵するブランディングができているところを上げるとしたら、それはアウディでしょう(スティーブ・ジョブズはBMWになりたいといっていたとされますが)。
さて、突然なんのPR、ブランディングコミュニケーションも取らずにアウディブランドでモーターサイクルを出しても説得力はないでしょう。ご存知の通り、アウディ(フォルクスワーゲングループ)にはモーターサイクル部門はありませんから、技術的にはDKW、ヴァンダラーとなんの繋がりもありません。それだと「なんでアウディがモーターサイクルを?」と顧客に思われてしまいます。
ですが、プレスリリースにこう記すのです。
「実は我がアウディは、4つのドイツのブランドを出自にもち、その2つはDKWとヴァンダラーというモーターサイクルブランドでありました。当時、世からDKWは●●と、ヴァンダラーは●●なバイクと認められ好評を博しておりました……(中略)……そのヘリテージと思想を受け継ぎ、現代のモビリティとライフスタイルに新しい提案をいたします……うんぬん」
こうしたフレーズが付き、それが顧客に伝わればアウディとしては勝ちです。2輪車を作り、売上げを確保し、同じくモーターサイクルを作るBMWと対抗するだけでなく、同時に、アウディというブランドの「ヘリテージ」を世界中に示す格好の素材となるのです。
アウディのようなラグジュアリー商材は、もはやどっちの方が性能がいい、どっちの方が安い、というような比較対象で選ばれるマーケットではありません。メルセデスだってBMWだってアウディだって「どれも間違いなくいい」。その中でどのブランドを選ぶかは顧客にゆだねられています。顧客はテイストや自分のライフスタイルにどのブランドがフィットするか、それがブランドの選ばれる理由になり、ゆえにブランドはスタイル(世界観でもいいでしょう)を提案し続けなければならないのです。
ですからプレミアムプロダクツ、ラグジュアリービジネスにおいて、今、重要なのは「ヘリテージ」になっています。自らのブランドを強化するための歴史的価値、ブランド的正当性。自分たちのブランドは歴史を重ね、今度の新製品も歴史的必然から生まれたものというストーリーを作るのです。
つまり、一連の買収は「プレミアムブランド」に必要なヘリテージ、歴史的正当性のさらなる補完というブランディング軸足の行動。アウディのすすめる全方位ブランディング強化の一環ではないかと思っています。
補足
では、なんでアウディはロールスロイスに匹敵するウルトラ高級車ブランドのホルヒを復活させないのか、といった話はまたどこかで。
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