2013年2月17日日曜日

偶然の一致

2月16日の今朝、数日前に注文していた沢村慎太朗さんの「午前零時の自動車評論3」が届きました。



クルマ雑誌や本で名前を探して読む書き手の方が何人かいらっしゃって、沢村慎太朗さんはそんな方の一人。そしてリアルに存じている方でもあります。つまりはワタシが自信を持ってオススメする(ハードコアクルマ好き向け)の書き手の方です。「スーパーカー誕生」という三国志もかくやなスーパーカーの歴史絵巻825ページ也、を著したくらいですから。

内容としては彼が有料メルマガ(これは購読していない)で書いている原稿を加筆修正して一冊にまとめたもので、これまでも1冊目、2冊目と買っているもの。「午前零時の自動車評論4」も同時に注文したのですが、なぜかこちらだけ先に届いた、と。

読み進めていくうちになじみのある名前が出てきて驚きました。「楽園」とタイトルを打たれた原稿の楽園とは代官山にある喫茶店「カフェ・フォリオ」だったのです。この本で知ったのですが沢村慎太朗さんはこちらでバイトしていたんですねぇ。

「カフェ・フォリオ」は代官山某所にある喫茶店で、昼も夜も古き良き代官山住民やなんだかカッコいい大人がたくさん集まっている素敵なお店でした。オールドビーンズのコーヒーも美味かった。そしてオーナーがクルマ好きだったせいか、クルマ好きが多かった(なんでそこがクルマ好きの「楽園」だったかは沢村さんに敬意を表して書きませんが)。

なんでこの店を知っていたかというと、ワタシもたまにお邪魔していたからです。静岡生まれの田舎モンのワタシがなんでこんな店に出入りできたかというと、ご常連につれて行ってもらったからに外なりません。

そのご常連をHさんとします。雑誌や広告やテレビ番組の企画・ディレクターをやっていたHさんと知りあったのは、大学を出てとある出版社でバイトをしていた(ってもう17〜18年前や…)時、外部スタッフとしていた彼と一緒に仕事をしたからでした。彼はどういうわけかガキンチョだったワタシを気に入って、その編集部にいた2年間はもちろん、そこを辞めてフリーランスになってからも、ちょくちょく声をかけてくれました。


彼には本当にたくさんのことを教えてもらいました。
仕事の仕方。
企画の考え方。
企画書の書き方。
キャッチコピー・原稿の書き方。
写真撮り方。
写真のディレクションのしかた。
見ておくべき写真集。
仕事のダンドリの付け方。
仕事のチームのまとめ方。
モノゴトの見かた、考え方。
カッコいいプレゼントの渡しかた。
気の利いた電話のしかた。
美味い食べ物屋。
話し方。
立ち振る舞い。
離婚のしかたと慰謝料の払い方(いや、まだ結婚もしてないんスけど)。
メシの食い方。
ありとあらゆる遊び方(というより人生の楽しみ方)
たくさんの尊敬できる年上の方の紹介。
そして、もちろんクルマ。

今のワタシの仕事のしかたとパーソナリティの8割は彼おかげと申しましょうか影響下にある、と言い切れます。

そんな彼との待ち合わせ場所は決まって「カフェ・フォリオ」でした。

たいてい打ち合せという名目で集まったのですが、まぁ打ち合せなんざ「かくかくしかじかで、こうなっている?どう思う?だよな、んじゃあとはヨロシク」なんて具合で10分15分やそこら。そこからは73カレラのクラッチミートがどうだの、やっぱりW123のメルセデスのドアは金庫そのものだの、ロレックスのサブマリーナーは肉体労働者の時計だから使い倒して正解だの、ハッセルブラッドのプラナーC100の解像感は空前絶後だの、そんな雑談が8割を占めていたのでありますが。


そして、この「楽園」にHさんが出てくるのです。沢村慎太朗さんを紹介してくれたのもHさんなので、不思議ではないといえば不思議ではないですが、流石に驚きました。

「楽園」の原稿の中の誰がHさんなのかは、たぶんHさん本人を直接知らないと分からないと思います。いや、分からなくてもいいんだ。こういうものは。

さて、いつもはアマゾンから本が届くと(それもクルマの本となればなおさら)その場で封を切って読み始めるのですが、今日はそうしませんでした。というのも墓参りに行ってきたからです。墓前には線香代わりに彼の大好きだったTrinidadのシガーを供えました。同じ煙なら線香臭いよりこの方が喜ぶはず。

今年は写真撮るの忘れた。これは去年の。

「線香代としちゃ、高けぇなぁ」と思わないような立派な大人になりたいと、毎年墓前で誓うのですが、今年もまたそう思っちゃった。進歩ないなぁ、自分。

そうして帰ってきて、おもむろに読み始め出会ったのが「楽園」原稿だったのです。まさか、今日、Hさんの話と思いでの「カフェ・フォリオ」の話を読めるとは思わなかった。Hさん、そして沢村慎太朗さんありがとうございます。Hさんの命日の今日、望外の偶然でした。