このブログを書いている数時間後にAppleの新製品発表が行われます。
新しいiPhoneは確実に発表されるでしょうが、長らくウワサになっているiPad miniも発表されるかもしれません。もし、発表されたら、それは日本のハードウエアとしてのカーナビの命日になるのではないか。そんな、ちょっと日ごろ思っていたことを思うままに書いているので雑文御免です :)
このiPad miniですが、ざっくりまとめると
1・サイズは7インチくらい(Retinaディスプレイにしつつ解像度を同じにするとこのくらいのサイズに)
2・Googleマップからオリジナルマップに(表向きはGoogleとの契約切れ)
3・もちろんSiriはある
という感じでしょうか。
もとより興味と思考実験(笑)としてクルマとナビゲーションとコミュニケーションというのが個人的なライフワークなわけですが、このiPad mini、実にカーナビゲーションにピッタリではないかと。
そしてカーナビといえば日本でさまざまなメーカーが後付け、ないしは純正ダッシュボードスペースに埋め込むモノをリリースしています。それらは20〜30万円超という高価格商品で、これら商品群がiPad miniの登場でその命脈を終えるのではないかと思っています。
というのも、もはやフィジカルな記憶媒体にマップを埋め込み、そこに店舗などのデータベースを格納して表示するという通信機能を持たないスタンドアロンのカーナビはあまりに不便だからです。例えばナビに表示されたガソリンスタンドを目指したらすでに倒産していた……なんてことはよく経験することでしょう。2012年版、なんていうナビの地図ではまったく間に合わないほど今、ガソリンスタンドは毎日のように廃業に追い込まれているのです。
それに元々のカーナビのアーキテクチャーをベースに追加に追加を重ねてカラオケ機能やメールやiPodオーディオコントロールやテレビなどを加えている様はDOS-Vモードとゲームがついたカラー液晶の、恐竜のようになった末期のワープロを思い起こさせなくもありません。
それならいっそ(これまでのiPadやiPhoneをナビとして使うアプリなどはありますが)iPad miniを埋め込か後付けでPND代わりに付けた方がいい。
まず1のサイズ。
7インチというのはメーカー純正のダッシュボード埋め込みナビゲーション画面の最も一般的なサイズと殆ど同じです。最近ではテスラのモデルSの17インチ縦型ディスプレイとか、レクサスGSの12.3インチディスプレイなども出ており、大画面化する傾向にありますがこれらはまだ少数派です。
ちなみにテスラモデルSのナビはUI含めて完全にタブレット端末のそれでして、昨年スペインで開かれたモバイルワールドコングレスのNVIDIAブースに堂々と置かれていたことを考えるとおなじみTarga2チップを搭載していることは確実でしょう。つまりまんまタブレット端末みたいなものです)。
また、これまでのナビはおそらくダッシュボードへの収まりなど面でなんとなく横長が当たり前でしたが、クルマは前に進むものですし、多くの人はヘッドアップ(進行方向を常に上に表示する)でナビを使うので縦長である方が理にかなっています。
加えて前に
WIRED誌にコラムで書きましたが、このサイズなら目的地に着いたら取り外して、そのままホテルで電子書籍リーダーとしたり、TwitterやFacebookをする、という使い方もできるわけです。
次に2のマップです。
先のガソリンスタンドの例を出すまでもなく、地図を毎年修正しベニューを手動で探しデータを打ち込むようなことは非効率で、むしろもはや不正確といえるでしょう。ユーザー同士がソーシャルに修正しつつマップを作っていく方が最終的に精度が高くなります(このあたりは
wazeが実現)
そして新しいiPhoneとiPad miniのiOS6はAppleオリジナルのマップが採用されるのがすでに明らかになっています(日本の地図はパイオニアの子会社のインクリメンタルPというウワサも)。
現行のナビで不便なのは、電話番号か住所、正確な名称を入れなければならないことです。その前段のプロセスとして雑誌なりネットなりでその場所を調べなければならない。そんなことをするくらいなら、foursquareのベニューなり、Googleで検索し、どんなところか調べてそこに直接行く、というほうがスムースです。
今、パソコンでGoogleで検索すれば、ガソリンスタンドがすでに倒産しているか、例えば夜、今から目的のガソリンスタンドの営業時間中にたどり付けるか、どのガソリンスタンドが安いのかなどが、リアルタイムでわかり、現にヨーロッパのVWグループのナビはGoogleナビになっており、すでにこれらの機能を実現しています。
3のSiriに関しては、OS側の制御も音声でできるということで全ての操作(ナビの呼び出し、目的地の検索、音楽などの再生)が出来るということです。MacOSの音声入力もそうですが、Appleの日本語認識の凄まじい認識精度は、これまでの数十年の日本のナビの音声入力はなんだったのかというレベルで…。
さて、ここからが本題にして完全な思いつき。
Appleが自社のマップを最初からカーナビ利用を前提にしていたら実に面白いんではないかと思います。
そもそも、人はなぜ、クルマに乗るのか?それは移動の目的があるからです(走ること自体が目的、というケースもありますが)。
ではその目的地ないし目的のアクティビティは無数にあるなかから機械的に選ぶのかといえばそうではありません。多くの場合はメディアで面白そうだから、友達が良かったといっていたからといったことで知るわけです。
それならFacebookで先週友達が行って楽しかったというキャンプ場を目指したらり、Instagramで美しかった海岸を見に行ったり、miilで友達が美味しいといっていた山奥の蕎麦屋を訪れたりしたいはずです。少なくとも自分はそうしたいですね。
何を検索したか。
何処へ行ったか。
どのくらい時間を使ったか。
ユーザーのクルマはなにか。
クルマには善かれ悪かれ属性があります。トヨタ86やポルシェ911に乗っていれば「ああ、クルマの運転が好きなのね」とわかりますがそれだけではありません。そのクルマが高いか安いか(経済レベル)、4ドアなのかミニバンなのか(家族構成および行動様式)、どのブランドか(好み)などなど。
「いや、オレはクルマなんぞ興味ない。動けばよいのだ」という人も立派に“クルマに興味がない”という属性が付くわけですね。そもそも属性は自分が決めるのではなくてデータを解析する方が決めるものですし。
AppleIDの他にナビゲーションモードの時には任意で自分のクルマを登録させる。
すると登録の見返りとしてユーザーはそのクルマの大きさでは通れない道はナビのルートから避けるようにしたり、平均的な燃費からガソリンスタンドを自動的に表示したり。EVならステーションを表示させる。ユーザーの許可の元、同じ車種のユーザーが常にマップ上に表示されたりしても面白いかもしれません。自分と同じ車種のクルマとすれ違うと「おっ!」と思うのはクルマ好きならよくあること(余談ですがトヨタ86のプロモーションはオススメ峠ガイドなどではなくこういことを86自体に実装すべきではないかと思っています)。
そしてここまでiPhone、iPadが普及しているということは一本の道の上にかなりの数のユーザーがいることになり、その位置情報から完全なリアルタイムで渋滞の情報を表示することも出来ます(これはトヨタやホンダの純正ナビでは実現していますが、あくまでホンダならホンダの新車を買った人同士のデータに限られています)。
さらにiAd位置情報版みたいな広告を用意すれば、優先してレストランやガソリンスタンドを表示することができるでしょう。
今度のiOS6、新しいiPhone、iPad mini(出るなら)でGoogleのマップとの決別が明らかになっていますがその理由は「契約が終わった」のではなく、広告絡みであることは間違いがないでしょう。
さて、このAppleカーナビの上で、既存のカーナビメーカーや私たちはどうすればいいのでしょうか。コンテンツを持つ会社は、クルマのネット化で、ビジネスチャンスが生まれます。ベースとなるマップの上に乗せる情報を売るのです。
個人的に最も分かりやすいのが食のベニューでしょう。
例えばmiilのベニューをマップに乗せる。軽井沢にドライブにいった時に、近所を検索すると友達が以前行っていて、美味しいといっていたピザ屋があることがわかり、そこに行く……というような。
そして例えば東京ウォーカーがオススメのアミューズメントスポットを提供する。
例えばカーサブルータスが美しい美術館100館の情報を提供する。
iPad miniですからオフィシャルサイトへのリンクも含めて必要な情報はすべて表示ができます。
既存のカーナビのように住所は表示されるが営業時間もどんな場所なのかも、料金も表示されなくて実は参考にならない…という残念な状態と対極の、本当に使える情報がナビ上に現れるわけです。
これら情報はマップの上にレイヤーのように重なっていくようなイメージで、ユーザーは必要な情報のレイヤーを選択して表示させます。企業はそのレイヤーを売るのです。既存の出版社やネットサービス業者は、自分たちが保持しているコンテンツを収益に変えることができるかもしれません。
さて、Google。すでに最新のAndroidのGoogleマップはすでに多くのAndroidユーザーのアクティブな位置情報から道路の渋滞をリアルタイムでVICSなど足下に及ばない精度で表示しています。VW系のカーナビでは実装されていませんが、Google AdSenseやGoogle AdWords的なものをマップの上に表示すれば(広告を出したガソリンスタンドやファミリーレストランを強調表示)、それは確実にGoogleの収益となるでしょう。
GoogleはAndroidスマートフォン、タブレットの他にVWグループ(フォルクスワーゲン、アウディ、ベントレー、セアト、シュゴダ、ランボルギーニ)と組んでいます。そして、Microsoft(とそのBing)はフォードと米国トヨタと組んでいます。そしてApple。
クルマとは、属性があって嗜好性があって広範囲に動き、プライベート空間でありパブリックでもある存在。だからクルマは、デスクトップでもない、モバイルでもない第三のエリア、ネットが入り込む最後のフロンティアになるわけです。Google、Apple、Microsoft、御三家の次の主戦場は、クルマなのです。
One more thing
ネットとスマートフォン・タブレットとクルマという文脈では、最終的にそれこそdocomoやKDDIがSIMと回線を提供する代わりに月額でクルマ(特にシティコミューター)をリースするということにすらなっても構わないんじゃないかとも思います。
One more thingその2
クルマに通信が付けば、エンジンマッピングや回生ブレーキのアルゴリズム修正をオンラインでファームアップデートしてもいいんじゃないかとも思います。
One more thingその3
本文中にもあるトヨタ86の峠クエスト(オススメ峠ガイド)ではない別のプロモーション方法があったのではないか…と思っています。なぜなら峠クエストは元々クルマ好き86潜在顧客には効くとは思いますが「新しくクルマの楽しさを知ってもらう」という86のミッションにはそぐわないためです。